銀星亭~Villa d'Etoile en argent~

題詠blog2009観賞 第1回 「笑」


001:笑(我妻俊樹) (半ドア)
憫笑のくちのかたちで死んでいる犬を跨いでゆく橋まつり


 ☆何ともリアリティのある質感に満ちた作品です。動かない犬とは関係なく開催されてゆく祭りのはなやいだ軽佻浮薄ぶりが絶妙な対比をなしています。生と死の「死」の側にこそリアリティがあることを思い出させてくれる1首です。



001:笑(天野ねい) (三十一文字の毒薬)
こんなとき君ならなんて言うのかな 僕は笑っているだけだった


 ☆ことばが出てこない、そういう体験を何度かしてきました。わたしたちは、人生の節目節目にこういったイベントを経験するのだと思います。



001:笑(加藤サイ) (啖呵きって頂戴)
それもいい あたしが泣いて絶対に誰かが笑うシステムならば


 ☆「絶対に」、というところに作者の冷静な観察眼と、他者の幸福への希求が感じられます。私たちはその代価が保障されるのならば、おそらくは喜んで他者のために泣き、また死をもいとわないはずです。絶対者としての神を持たない私たちが他者の幸福を祈ることはたいへん難しいことです。



001:笑(ちっぴっぴ) (うたよみブログ)
火葬場で何も知らずにはしゃいでる子らの姿に泣き笑う春


 ☆春のあたたかな空気の中で桜が散っています。いまひとりの人を送る弔いの場で、死をまだ理解せずはしゃぐ子どもたちの生の存在は、一見圧倒的な存在です。
しかし人間にとって逃れ得ない『死』と比較したときにそれは、このよろこびも絶対的なものではないなと、すぐに相対化されます。私たちの根底にある無常観の流れの中で、桜だけが変わらず散り続けていきます。



001:笑(やすたけまり) (すぎな野原をあるいてゆけば)
真夜中の電子辞書から呼びだせばうたってくれる笑いかわせみ


 ☆ワライカワセミすてきです。真夜中の電子辞書と言う設定もいい。真夜中には必ず何かが起きます。



001:笑(佐藤羽美) (hinautamemo)
挨拶をしましょう互いの湖がこぼれぬように微笑みながら


 ☆ひとはだれも自分のなかに水をたたえています。大人ともなればそれは湖と呼んでも差し支えないほどになっているでしょう。ひとは、かなしいから、笑って挨拶をします。こぼれた水はもう元に戻らないということを、みんなが知っているから。



001:笑(つばめ) (ツバメタンカ)
「あざ笑うべき人々」を報道しジャーナリズムはこの春に死す


 ☆糾弾されるべき人々を糾弾するはずのジャーナリズム自体が腐敗しあるいは機能不全に陥っているのではないか、という鋭い指摘。それにしてもやっぱりジャーナリズムが死ぬのは夏でも秋でも冬でもなくて、春でなくてはならない気がしますね。



001:笑(田中彼方) (簡単短歌「題詠だ」)
チェシャ猫の笑顔でメール読みながら、僕の前から消えてゆく君。


 ☆チェシャ猫は不思議の国のアリスに出てくる猫。すごい顔で笑います。ただチェシャ地方は酪農が盛んで、乳製品(バター、チーズなど)も豊富で、当然猫もゴキゲンである、というような話もあり、嫌味な笑いではないのかもしれません。ただし確立されたキャラクターを用いて「~のように」という直喩を実施することで、下の句にける消失感がよりいっそう際立ってくる効果を生んでいます。



001:笑(こばと) (一生インドア派)
どうやって笑っていたの本物の君を前にし携帯閉じる


 ☆長年付き合ってきた友人でも実は私はあいつのこと全然知らなかったんだなあ、と思わされることがあります。親子や恋人でもそういうことってありますよね。「本物の」誰かを目にすることの衝撃は大きいです。



001:笑(yui) (Romantic irony)
カーテンを開ければ部屋にたくさんの笑顔の残像透かす夕焼け


 ☆この歌の主役は「大切な人が去った」あとの「何もない部屋」でしょう。そこにたしかに笑顔はあるのですが、しかしそれはあくまでも「残像」なのです。人の営みとはかかわりなくさしこんでくる夕焼けはあくまでも清浄です。透明感のある美しい歌です。
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by yoizukisaene | 2009-12-22 15:35 | 題詠blog2009 | Comments(0)
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静岡在住の歌人です。日々詠んだ歌を載せています。
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管理人プロフィール
《生まれも育ちも》
1984年、静岡県富士宮市生。
2006年3月、熊本大学文学部文学科日本語日本文学分野卒業。現在、静岡県在住。
2006年「短歌研究」誌掲載。
2009年「平成万葉集」(読売新聞社)入集。
2012年 歌集「高天原ドロップス」(文芸社)上梓。

《専門と専攻》
専門:日本古典文学(平安朝和歌文学)
専攻:「古今和歌集」とその表現

《師弟関係》
師事 安永蕗子
弟子 小海碧架
    まみ


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