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銀星亭~Villa d'Etoile en argent~

近詠自選30首

金魚鉢 乱反射するハルノヒを収束させて金魚は赤い

きもちいいところにとどく一枚の絵画のような春のモルヒネ

車内灯一斉に消える さっきまで新幹線生きていたのに

きみはつねに1cm浮いて歩いてる ぼくらの住まうこの世界から

陰口、と言ひし少女のくちびるのなまめかしきを今も忘れず

髭男爵のひぐちくんみたいな店員がドア開けるとき、海鳴りふいに

清浄なものと思っているうちはほんとの雪を知らないのです

歌はばそのかなしきこともやわらかなかなしみとならむ 海待つように

ネクタリンかじる時しも月さして世界の秘密はあたしのものだ

少しずつ弱冷房車が離れてく 一億年後にまた会うために

ひとひらのうたを求めてさまよえる ただそれだけでいきられるうた

どうしようもない怖さを抱え生きている(世界がずざっとずれていること)

無花果はいちじくとして死んでゆき 雲丹はうにとして生きてゆくなり

1立方メートルの空が降ってきて人をゆっくり潰してゆくの

その下にひとがいること知ってるわ だけど仕方がないことだもの

ねこにはねこのかなしみがある 今日ぼくは刑場へ行く ねこにさよなら

夏は終わるものではなくて閉じるもの 今日で夏を閉じますあしからず

おとがいといふ語の意味が出て来ずにゆっくり午後を消費してゆく

寂滅の死を思うとき人間は、もっとも花野に近き者かも

もうずっとさびしいよって思ってた 思ったときにさびしくなった

とりあえずまっすぐゆくほかないようで ほかにみちなきことのたしかさ

この窓の向こうに空があるけれどそこにいけるかどうかは別だ

雨音はいつも僕らのあやまちを隠すふりして際立たせるの

あまり水を吸わぬタオルを出しながら今夜初めて男を泊める

iPhoneに充電コードつなぐとき水をつぎたすように 真夜中

たましいはすこしだけ空気より重いから鉛直下向きに沈んでくのよ

清浄な骨を砕いて撒きにいく ふるさと それは骨撒くところ

かぎりなき星のかなたの空までもつながっているゆえにさみしい

世界はいま 急速に色を変えていき 藍色地点まで来ています

ならぬことを言ってしまったせいだろうぼくのやまびこかえってこない



by yoizukisaene | 2017-07-23 13:17 | 今日の歌
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静岡在住の歌人です。日々詠んだ歌を載せています。

by よいづきさえね
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《生まれも育ちも》
静岡県富士宮市生。
熊本大学文学部卒業。
2006年「短歌研究」誌掲載。
2009年「平成万葉集」(読売新聞社)入集。
2012年 歌集「高天原ドロップス」(文芸社)上梓。

《専門と専攻》
専門:日本古典文学(平安朝和歌文学)
専攻:「古今和歌集」とその表現

《師弟関係》
師事 安永蕗子
弟子 まみ


《著作一覧》
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